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大ヒットドラマ『愛の不時着』を超える、甘く切ないコブダイのラブストーリー【新潟・佐渡島】


事実は小説よりも奇なり・・・

突然ですが、昨年大きな話題となったドラマ『愛の不時着』はご覧になりましたか?
北朝鮮の軍人(エリート将校)と、韓国の財閥令嬢(キャリアウーマン)による、禁断の国境を超えたラブストーリーです。

予想外の出会いに始まり、秘密裏にお互いの国を行き来する中、どうしようもなく惹かれ合う2人。でもついに軍事境界線で引き離されしまう最終回は、何度観ても号泣です😭 

※私はこのドラマを繰り返しとめどなく観てしまうほどドハマりし、このままじゃ日常生活に支障をきたすと思い「Netflix」を解約しました・・・。

胸キュンをたっぷり楽しませてくれた『愛の不時着』ですが、現実にはあり得ない物語だということは、韓国と北朝鮮との関係を知っている人ならば想像がつきます。だからこそドキドキしちゃう。

しかし・・・魚の世界には人間の想像を遥かに超えてくる生態がたくさんあります! もうドキドキどころじゃないです。その筆頭に挙げられるのが・・・

コブダイの性と愛です。


強面だけどフレンドリー。
コブダイ界のキング「弁慶」

新潟県・佐渡島の北小浦沖「赤岩」にはコブダイのハーレムがあり、人気のダイビングスポットとなっています。まずはフォトジェニックなコブダイの勇姿をご覧いただきましょう!

↑こちらが、25年もの間ボスとして君臨していた伝説のコブダイ「弁慶」。おでこと顎が大きく張り出しているのが強いオスの証。

体長1mにもなる弁慶は強面だけど、とってもフレンドリー。初めて会ったときはパーソナルスペース(フィッシュスペース?)がものすごく近くて驚きました。気づくと真横にいることも!

こんなにも弁慶がダイバーにフレンドリーになったのは、長年コブダイを愛情深く見守り、佐渡島の海を世界にプロモーションしてきた元ダイビングガイド・本間 了さん(写真左)のおかげです!

そしてこちらの写真を撮影したのは・・・

日本を代表する水中写真家・中村宏治さん‼️

このたびは大変光栄なことに、本ウエブサイトに写真のご協力をいただきました。ありがとうございます!

宏治さんは約25年「弁慶」を撮影し続け、NHKや海外メディアにも映像や情報を発信されてきました。そして・・・「弁慶」の名付け親でもあります!


今回は、中村宏治さん、本間了さんから写真をお借りしてコブダイの性と愛について綴っていきたいと思います!


一番強い女が男になっちゃう!
衝撃の真実

話を少し戻します。『愛の不時着』が“禁断の愛”なのは、分断されている国境を越えてしまったから。人間界ではさらに「不倫」や「立場をわきまえない恋愛」が“禁断の愛”とされています。

いっぽう、魚の世界には、「国境」も「不倫」も「立場」もありません。
魚たちにとって生きる目的は、一も二もなく

種の維持

恋愛対象を選ぶ基準も明確です。メスはより成熟したオスを見極め、交わり、子を産むのです。

ここまではよく聞く野生生物の本能ですが、コブダイにはもう1つ衝撃の特徴があります。

全員メスで生まれてくる!

上の写真はコブダイの幼魚です。見た目が成魚と全然違うことにまず驚きますが、一番驚くのは全員メスだということ。

さらに驚くのはここから・・・

一番強いメスがオスに性転換しちゃう‼️

↑メスはオデコとアゴの膨らみがなく、体は全体的に赤っぽいのが特徴です

「赤岩」には20〜30匹ものメスがいて中でも体の大きいメスが性転換しオスになり、2〜3匹いるオスの中で一番強いオスがボスになるのです。

この生態を聞いた時ドキリとしました。

「私もそうなっちゃうかも」

その頃の私は月刊誌の編集長として昼夜・土日を問わず働いていたので、ふと自分がオス化しているんじゃないかと思うことがありました。本能的にホルモンバランスを保とうとしていたのか、ローズのアロマオイルの蒸気を肺の奥まで吸い込んでいました。

魚の世界ではコブダイのように全員メスで生まれてきて、強い個体がオスになるという「雌性先熟(シセイセンジュク)」なる不思議な生態があります。

私だったら耐えられません・・・なぜそんな酷な運命をたどらせるのでしょう?

一夫多妻のコブダイの場合は、オス同士の激しい縄張り争いがあるため、体の小さいオスは繁殖の機会が得にくい。だったら小さいうちはメスとして成熟し卵を産み、大きくなったらオスとして子孫繁栄に貢献する・・・ざっくりとこのような生態です。なんという合理的なシステムでしょう。

でもヒト科である私には許容しかねます。自分の意志とは別に、性別が変わってしまうなんて心が追いつきませんもの🥺


オスとして生きる覚悟

冒頭に紹介した「弁慶」は、最強のメスになり→オスになり→オスの競争を勝ち抜き→最強のボスになる という数奇な運命をたどり「赤岩」に君臨します。

人間界には性差別の問題がいまだに根強くありますが、コブダイ界のジェンダー問題はその次元を遥かに超えています。

種の維持を果たすため、個々がどのような能力を身につけ、どう行動し、いかに連携すべきかを潜在的に分かっている。。。「どう生きるか」の認識が宇宙レベルなんです。
 



絶対的ボス「弁慶」がモテる3つの理由


では、最強のオスとなった「弁慶」の生き様はいかなるものだったのでしょう? ここからは水中写真家の中村宏治さんから伺ったとっておきのラブストーリーを紹介したいと思います!


「弁慶」は春の繁殖期になると、他のオスを牽制しながら1日3〜5回、複
数のメスと繁殖行動を行います。とにかくモテるんです!その理由とは・・・

モテる理由①:ライバルを圧倒する強さ

赤岩には「弁慶」の他に、第二のオス「ゴルバチョフ(通称ゴル)」が住んでおり、激しい縄張り争いが繰り広げられます。ときに大きなケガを負うこともありますが「弁慶」はケンカが強い! 結果、メスの7割が弁慶、3割がゴルと繁殖行動をしていたそう。

↑弁慶のライバル「ゴルバチョフ」(左)との縄張り争い。「ゴルバチョフ」は、おでこの右上にあるアザが元ソ連大統領のミハイル・ゴルバチョフ氏を思わせることから宏治さんが命名しました。この写真すごくカッコいい!


モテる理由②:とにかく目立つ!コブダイ界のKing&Prince

(出典: ヒゲアザラシの水中メガネ

繁殖期のオスは体が真っ白! スポットライトが当たっているように目立ちます。これは遠目でもメスにアピールするためだそう(いっぽうで成熟したメスは黒っぽい)。

まるで白馬の王子様? いや、人気アイドル King&Princeが「シンデレラガール」のときに着ていた白スーツを彷彿させます。

繁殖行動が始まるのは15時ぐらい。

「超イケてるんですけど♡」と、コブダイ界のキング(プリンス?)「弁慶」の周りには複数のメスが集まって来るのです。


モテる理由③エスコート上手

↑奥が弁慶。手前のメスのお腹が大きいのがわかりますよね。コブダイの繁殖は、メスが卵を放ち、オスがそこに精子をかける「放精・放卵」という方法で行われます。ペアは体を絡ませ螺旋を描くように10mほど上昇し、水面近くに卵を放ちます。他の生き物に卵が食べられないよう、潮の流れを利用して卵を岩礁から離れた場所へと送り出すためです。

圧倒的なヴィジュアルで存在感を放つ弁慶ですが、最大のモテポイントは別にあると宏治さんは分析します。

「大きくて白くて強いだけじゃオスはモテない。弁慶はメスの動きをよく観察し、エスコートしていたんだよ」

ひー! それって人間と一緒ですね。

例えば弁慶が「産卵、いっしょにどうですか?」とメスを誘った時、「まだ準備ができてないの」と躊躇されてしまったらどうするのでしょう?

メスの体内にある卵は油分を含んで固まっているため、事前に産卵口から海水を取り込んでバラけさせる必要があります。弁慶はそのサインを見逃さず、メスにピタリと身を寄せ震わせながら、海水を取り込むサポートをし、産卵行動へ移るのだそう。

愛とエロスと優しさが渋滞した内容ですが・・・メスのペースを尊重してくれる弁慶には安心感と信頼感が持てます。それはモテますよ、納得! 


ラストダンスのお相手は
弁慶が寵愛した「玉虫」姫

「魚にも愛がある」

中村宏治さんは弁慶を撮影していたときに、それを強く感じたと言います。

弁慶は一日のうち複数のメスと繁殖行動をとるのですが、最後には必ず同じメスだったそう。宏治さんはそのメスに「玉虫」と名付けました。

玉虫は、弁慶を遠目から見ていて、周りにメスがいなくなるとすっと身を預けるように弁慶に寄り添っていたそう。「ラストダンスは私で・・・」と言わんばかりに。その時の弁慶も、他のメスには見せない表情をしていたのだとか。

「人間と同じように、魚にも結びつきの強い相手、専門用語で言うと「ペアボンド(Pair Bond)」が強いケースがあると思う。弁慶は玉虫が好きだったけど、ゴルバチョフはまた別のメスが好きで、それぞれに愛のカタチがある」と宏治さん。

玉虫と弁慶の間に強い愛情を感じたのは、ゴルバチョフという比較対象がいたことも大きかったそう。生態学的には「この種だからこういった生態行動をとる」ときっちり定義されてしまうけれど、繁殖行動1つをとっても個性があることが分かったそうです。

「人間も魚も1個体の動物であることに変わりない。生き物の特性はそれぞれあるけれど、魚も人間もほぼ能力は一緒だと思う。魚にも愛や感情がある・・・それは実際に目にすることでしか感じ得ない、大切なことを彼らから教えてもらった気がする」と話してくれました。

長年、魚たちの生態行動をつぶさに撮影してきた宏治さんだからこその貴重なお話をありがとうございます!


水中写真家 中村宏治さん

深海から水面まで数多くのドキュメンタリー作品を撮影・プロデュースされてきた宏治さん。海外からの信頼も厚く、BBCをはじめ、映画撮影や海外共同プロジェクトのオファーも多数。現在、日本水中映像 代表取締役会長。詳細はこちら! (写真:宏治さん&愛犬ミューズと)


フランス映画『オーシャンズ』、
NHKドキュメンタリーにも出演!


弁慶は赤岩のボスとして約25年も個体識別され、2012年に姿を消しました。おそらく老衰だといわれています。ボスになるまで何年かかったのかが不明なのでトータル何年生きたかはわかりませんが、コブダイの寿命はだいたい30年、ご長寿だと50〜60年と言われています。

↑弁慶の口元にいるのはヒメギンポ。体についた寄生虫を食べてくれるクリーナーフィッシュとして、弁慶の健康を支えてきました。


ここで宏治さんから伺った驚きのエピソードをもう1つご紹介。
あるとき、弁慶の口の中でクリーニングを終えたであろうヒメギンポ(写真上)が飛び出してきたのですが、その直後にタバコのような白い煙が噴き上がりました。その正体はタイノエという寄生虫の幼生。タイノエはコブダイの体内で血を吸って生きているのですが、ヒメギンポの働きにより、エラに産み付けた卵が孵化し、幼生が大量に泳ぎ出たのだそう・・・。
「あの寄生虫がいなければ、弁慶はもう少し長生きしたかもしれない」と宏治さん。ゴルバチョフとのケンカで傷を負ったり、ときには何者かにナイフで体を刺されたり・・・いろいろ困難を乗り越えてきた弁慶だけれど、海でのサバイブは容易ではありません。それでも長い間ダイバーを楽しませてくれた弁慶、アッパレです!


弁慶は25年の間、さまざまなメディアで紹介されてきました。中でもフランス映画「オーシャンズ」やNHKのドキュメンタリーは印象に残っています。弁慶は佐渡島を世界に広めたインフルエンサーでもあります。

↑フランス映画「オーシャンズ」(2010年公開)は世界中から珠玉の水中シーンを集めたドキュメンタリー作品。日本からは佐渡島の「弁慶」vs「ゴルバチョフ」の縄張り争いと、島根のムラサキダコが収められています。

この2か所が選ばれた経緯は・・・宏治さんが代表を務める「日本水中映像」がいくつか日本の水中シーンを提案した中からフランスチームが選出。劇中の撮影プロデュースとスチール撮影は宏治さんが担当され、ムービー撮影は同社カメラマンの奥村 康さんが担当されました。映像美に引き込まれます! ぜひご覧ください!


↑2012年、佐渡のダイビングガイド・本間了さんから「弁慶危篤、すぐに来られたし」とメールを受け取った宏治さん。すぐに向かうと、弱った弁慶がの姿が・・・。上の写真は、宏治さんが最後に撮影した弁慶。その年の12月に、弁慶は姿を消しました。不思議なことにゴルバチョフも同じタイミングで姿を消したそう。

「弁慶」亡き後、「ヤマト」というオスがボスの座に就いたのですが1〜2年で追われていなくなり、その後オスのコブダイは一律に「弁慶」と呼ばれるようになりました。伝説のボス「弁慶」の存在が、ダイビング業界にとっていかに大きかったかがわかります。もちろん、今でもコブダイのハーレムは見られます!

佐渡島の水中は他にも見所がたくさんあります!食べ物も日本酒も美味しいし、最高に面白い旅先です。ぜひ訪れてください!あー私もまたすぐ行きたい。。。

都内から佐渡島へは、「関越・北陸自動車道」や「上越新幹線」を利用し新潟港へ。そこから佐渡汽船で船旅を楽しみながら移動します。

佐渡汽船の船旅もめっちゃ楽しい!たくさんのカモメが追いかけてきます!